恋人(仮)



その日は雨で試験も近いということで部活は中止になった。

なので は図書館で一人勉強していた。
は図書館が大好きだ。すごく静かで落ちつく。今日はいつもにまして人がいなかった。

図書館からはテニスコートも見える。今日は雨に濡れて少し淋しい場所に見えた。
けれど最初のうちは勉強していたが、しているうちに段々眠くなってきてうとうとし始めた。












「あれ・・・」

その日もリョーマは図書委員で暇を持て余していた。

奥の方に返された本を戻しにいくとどっかで見たような少女が机に頭を預け眠っている。

・・・?」

テニス部のマネージャーであり同じクラスでもある手塚
あの手塚部長の従妹だと名乗った少女―――。

はもともと明るくて可愛かったからいまでは先輩たちのお気に入りでもある。
それがリョーマには少しおもしろくなかった。

(チャンスかも・・・)

どうせ誰も来ないだろうしリョーマは本をさっさと戻して委員の仕事は放棄することにして の隣に座った。

前髪を少し上げて、顔をまじまじと見つめる。

ドキ・・・

少し開いた唇に思わずキス、したくなった。
したくなったからといって諦める性格でもないので(そういう問題でもないが)、ゆっくりと自分のそれを近づけていく。

「ん・・・」

一瞬目が覚めたのかとドキっとしたがどうやら違うらしい。

「・・・おにーちゃ・・・」

が無意識に呼んだのは彼女の従兄にあたる手塚国光。

リョーマが勝てなかった相手。 が呼んだのが手塚だったのがまた悔しくて苦しくて、無理矢理その唇を塞いだ。

「ん・・・ぅっ・・・」

途中で目を覚ましすごく驚いた顔をしている の唇をこじ開け咥内を貪る。

「・・・やっ・・・りょ、まくん」

リョーマを両手で思いきり押しのけようとすると腕を掴まれ適わない。
やっと解放されると の顔は真っ赤に染まっていた。

「な・・・?なんで・・・っ」
「好きだから」
「だからって・・・っ」

普通了承得てするもんじゃないの!?と思ったがなんだか頭がパニック状態でちゃんと言えない。

「ねえ・・・ は?」
「は?」
「俺のこと好き?」

いつも自信に溢れている目が少し不安そうに写った。









「〜〜〜〜〜ワカンナイ」
「ワカンナイ?」
「だってリョーマくんのことそんな風にみたことないもん」
「・・・ふーん」

あ、やな予感・・・

リョーマくんは不敵に笑ってこう言った。

「じゃぁさ」

そしてぐいっと の腕を引きちゅ、と頬にキスを落とす。

「お験しで恋人にしてよ。絶対俺を好きになるよ」











その時から。

うんともすんとも言ってないのに、リョーマくんはいつも の近くにいるようになった―――










あの日から、私は、彼に捕らわれたのだ。





「・・・ 、ねえ・・・ ってば!」
「え?」
少し考え事をしていた私を目の前の・・・自称、恋人のリョーマが呼んでいた。
「何?」
「何、じゃないよ。ずっと呼んでたんだよ?」
リョーマが私に顔を近づけながら言う。私は思わず1歩下がった。
「・・・なんで逃げるの?」
「だ、だって・・・」

ドキドキするから。

そんなに顔を近づけられると、緊張する。
そんな私の想いを見透かしたように、彼は笑うのだ。


「いいけどね・・・でも、」
ちゅ、と頬にキスされた。
「俺といる時は俺のことだけ見て、俺のことだけ考えてよ?」

私、思わずその台詞にかぁっと頬が赤くなった。キスのせいかもしれないけど。
なんであんな台詞平気で言えちゃうんだろう・・・帰国子女だからかな。
どうでもいいけど、恥かしいんですけど・・・。






私とリョーマは恋人のようなでも違うような関係。

“友達以上恋人未満”

そんな感じかもしれない。
3週間前リョーマが私のことが好きだと言ってくれて。
でも私はその時はリョーマが好きなのか嫌いなのかよくわからなかった。
分からない、って言ったらお験しで恋人にしてって言われたんだ。
別に好きなひとがいるわけでもなかったから、軽く了承した。


それから、リョーマくんはほんとにいつでも側にいてくれる。
いつ、どんな時もリョーマを側に感じるのだ。

朝から夜まで1日中。

でも嫌ではなかった。仮の恋人だけどリョーマと一緒にいるのは楽しかった。
時々リョーマは何か言いたそうに私を見る。
私もたぶんどこかで彼の言いたいことはわかっている。




想いに答えを出すのは怖くて。


気付いているのに誤魔化していた。



そんな日が何日も続いた・・・。













「ねえ・・・
「何・・・?リョーマくん」
あの日、リョーマが私の恋人になってから、彼は私を家まで送ってくれていた。
繋いでいた手に少し力がこもる。

・・・」
唇に、彼のそれがくっつく寸前―――私は思わず身を引いた。
「やっ・・・」
「それが、 の答え・・・?」
目が、すごく悲しそうに写った。
「あ・・・違う、違うの。ごめんなさい・・・!」
「もういいよ・・・ごめんね、いままで無理矢理付き合わせちゃって」
「あ・・・リョーマくん・・・!」

呼びかけたも彼は振り返ってはくれなかった。






傷つけてしまった、あんなに優しかった彼を・・・!

自分の気持ちを見つめるのが怖くて。それはとても怖いことで。
臆病だった私が、優しい彼を傷つけてしまったのだ。
あんなに、優しく、包み込むように私を愛してくれたのに・・・。






次の日、学校に行くのが気まずかった。
学校に行ってリョーマに会うのが・・・。

部活でも教室でも顔を合わせても、必要以上に話しかけてくることはなかった。



ちゃんとおチビ、なんかあったのかにゃ〜?」
「そっスね、昨日まであんなに見せつけてたのに」
「どうだろうね・・・ちょっと聞いて来ようか」
「え、不二・・・っ!?」

止める間もなく(さすが不二さまです)、不二が のもとへやってきた。


「あ・・・不二先輩」
ニコ、と微笑むもいつもより活気がない。
「手伝うよ」
といって のやっていた仕事を手伝い始めた。
「すいません。・・・ありがとう、ございます・・・」
「なんかあった?」
「いえ・・・なにもないですよ?」
懸命に元気を装うとしてニッコリと微笑んだ。何か消え入りそうな笑顔だった。
「あったんだ・・・。越前くん絡みかな?」
「・・・な、なんでわかるんですかぁ・・・」
「ふふ・・・だって今日君達一言も言葉を交わしてないみたいだしね・・・君の視線の先を見ても、わかるよ」
「わ、私見てなんか・・・」
「で、どうしたの?」
有無を言わせぬ口調で不二は を見つめた。



「・・・ ・・・!?」
気付いたら の瞳からは涙が溢れていた。
「あ、ごめんなさ・・・」
止めようと思っても止まらない。
「ちょっとこっちおいで・・・?」
不二は優しくコートから見えない位置に を誘導すると、ぎゅっと抱き締めた。
「ふ、不二先輩・・・?」
「彼のことが・・・泣くほど好きなんだね」
「リョーマくんは悪くない、私が、みんな私のせいで・・・!」
私はそのまままた泣いてしまった。
不二先輩はずっと側にいて私を抱き締めていてくれた。









「泣き止んだ?」
「あ・・・はい・・・。すいません・・・」
「ね、ボクにしない?ボクだったら絶対君を泣かせたりしないよ?」
「あ・・・でも」
「ボクは が好きだよ」
さらっと言われて は思わず顔が赤くなった。

「あ・・・ごめんなさい。私が好きなのは・・・リョーマくんだけですから」


そうだ。

私が、好きなのはリョーマだけ。
やっと、分かった。



「そっか。じゃ、早く彼にそれを伝えてあげなきゃね?」
「先輩・・・ありがとうございます・・・」
「ふふ・・・お礼はいいよ。越前くんに飽きたらボクのとこへおいで」
ニッコリと。それでも優しい先輩は、そう言ってくれた。
そこで はリョーマを探しにその場を立った。


気付いた想いを彼に告げるために。











「やれやれ・・・困ったお姫さまだねえ。・・・と思ったら、王子さまもかい?」
建物の方に不二は声を投げかけた。物陰からリョーマが出てくる。
、は・・・?」
「いま行っちゃったよ、君を探しにね・・・」
リョーマはそのまま踵を返して のもとへ向かおうとした。

「越前くん!」

ふと後ろから声がかかりリョーマは少しうっとおしげに振り返った。
「半端な気持ちなら行かない方がいいよ?」
「俺は、 が好きだから」
「ふーん・・・だったら2度と を泣かせないことだね。今度泣かせたら・・・ボクが貰っちゃうから」
「そんなことにはならないっスよ」
それからリョーマが振り返ることはなかった。







「あれー・・・どこ行っちゃったんだろ・・・」
一方 は。
リョーマを探して校舎を掛け回っていた。
コートに戻ったら校舎の方へ行ったというし、けどいないし。
「どこにいるのよー・・・」
疲れてその場にしゃがみこんだ。
「会いたいのに・・・」
会えないことで少し泣きそうになった。
「会いたい時になんでいないのよ」
リョーマが悪いわけでもないのに、出てくるのは文句ばかり。
「コートに戻ってみようかな・・・」
そう、コートの方へ向かおうと立ちあがった時後ろから抱き締められた。
何度も何度もそうされたから、誰だかもう分かってる。



「リョーマくん・・・?」
「どこいったのかと思って探した」
「うん、私も探してた」


言いたい言葉。

言わなくちゃ。



「あのね・・・リョーマくん。私、リョーマくんが好き。リョーマくんにずっと側にいて欲しいよ」


「先に言われるなんて、俺もまだまだだね・・・」
「え?」
「俺もやっぱり が好き。 が側にいてくれないとダメだから・・・側に、いて欲しい」





そしてリョーマは の唇に自分のそれをゆっくり重ねた。

それが私たちのファーストキスで。



離れた時に見たリョーマの顔は。
夕日に照らされていたけれど。

少し、赤かった。


そして私たちは手を繋いで帰って。

恋人になることができました。




written by koo hiduki .....






読み返すと痛い…。
なんて中途半端な終わり方。



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