大好きなひと。 ..... 勇気編



『ごめんなさい・・・っ』
入学式の日。
自分の前方不注意で人にぶつかってしまった。
しかも私はそのままふっとんでしまって。

『大丈夫?』

差し出された手はとても冷たかったけど、その分心が休まるような笑顔が忘れられない。




3年6組、不二周助先輩。

それが彼の名前だった。












今日も朝早く登校してきた私は迷わず窓の方へ向かった。
私のクラスである1年1組は四階の一番端にあって、窓からはテニスコートが眺められる。
朝練をこなすテニス部を見るのが私の毎日の日課だった。

「うわぁ・・・たいへんそう」

窓の外から見える光景に思わず声を漏らす。
テニス部では朝からランニングをして、その後激しい打ち合いをしていた。
運動が嫌いではないのだがあまり得意でないにはとてもこなせないものだった。


一番手前のコートに、自分のお目当ての人を確認する。

「不二先輩・・・」

一番手前ではレギュラー陣といわれる人達が練習していた。
上から見ると全コートを眺めることが出来るので一際目立って見える。
ラリーもなかなか切れない。左右に動くボールが目に入る。



がらっ・・・。

「オハヨ、ちゃん。今日も早いねー」

委員長である前田さんが入って来た。
「オハヨー。前田さん」
軽く挨拶をする。
「不二先輩?」
「・・・うん」
前田さんは毎朝早いのでが誰を好きなのかを知っている唯一のひとだった。
は前から好きなひとなどをひとに明かしたりすることも、思いを伝えることもなかなか出来ない子であった。

見てるだけ。
それでもはとっても幸せになれるのだ。

「やーん。手塚部長、相変わらずカッコイイ〜v」
前田さんが隣に立ってそう言った。
「不二先輩の方がカッコイイよぅ」
私も負けずに言った。

「こんなに早く来るならコートの近くで見たらいいのに」
前田さんがそう言った。
「うーん・・・そんな勇気ないよ〜」
これは事実。でも近くで見てみたい自分もいる。

あ、そうだっ。と前田さんが目を輝かせてこっちを見た。

「今日の放課後、一緒にテニスコートに練習見に行こうよ」
とそう言った。

「えええっ。出来ないよ〜・・・そんなこと」
「こーんな遠くから見てるより間近の方が絶対いいよ!私も一緒に行くから。ねっ?」
「え〜・・・うーん・・・」
「私もさ、手塚部長間近で見てみたいけど勇気ないし。でも他の友達と一緒に行くわけにも行かないからさ。お願い!」
「そういうんなら・・・」
「んじゃ、決まりねっ!」








そんなわけで。
放課後テニス部の練習を見に行くことになった。

ああは言ったものの、授業中も落ちつかず早く放課後になればいいと願いながら時間は過ぎていった。










「うわぁ・・・緊張する」
下駄箱を出て正門でなくテニスコートへ向かう途中、はドキドキしっぱなしであった。
「へへっ・・・あたしも」
前田さんも笑って同調してくれる。
一歩近づくにつれてぱこーんとボールを打ち合う音が強くなる。
そうして木の向こうにテニスコートが現れた。

「うわぁ・・・」

いつも4階から見るテニスコートは近くで見るととても広かった。

「広いなぁ・・・」

ちゃん、あっちに座ってみようか」

あっちとテニスコート前の少し丘になっている上にそびえる木を指差した。

「うん!」

テニスコートの周りは(特にレギュラーがいるコート)女生徒でいっぱいだ。
木の下はとてもいい場所になった。



「カッコイイねえ・・・」
「そうだねえ・・・」

2人で言い合いながら練習風景を見つめる。
「私にも出来ればなぁ」
「テニス部入っちゃおうか?」
笑いながら前田さんが言う。

いつもよりずっと近くで見る不二先輩はやっぱりカッコ良かった。
顔がすごくよくはっきり見えて、はだんだん顔が赤くなってくる。





しばらく2人とも無言で見ていて。

不二の一挙一動を逃さぬように見入る
そしてあることに気付いた・・・

「ねえ・・・前田さん」
「ん、何?」
「不二先輩さぁ・・・なんでずっと笑ってるのかな」
それもまたカッコイイんだけど。そうは思ってもなんで・・・。
「さぁ・・・言われてみればずっと笑ってるねー・・・」
入学式から今まで見ていてこんなことに気付かなかったなんて。
はまだ不二のことを何にも知らない自分に気付いた。

「あ。」

「何?」
前田さんは自分の腕時計を見て言った。
「ゴメン、6時から塾なんだ・・・私もう帰らなくちゃ」
「そうなんだ。私、もうちょっとここにいるね。また明日ね。今日はありがとう」
「うん、ゴメンね!また明日!」
そういって前田さんはぱたぱたと走って行ってしまった。



どうしよう。

このままここにいようかは少し悩んだが折角来たので最後まで見ていることにした。



1人2人・・・。5時過ぎたこともあって段々と見ていた生徒も帰っていく。
6時になってテニス部の練習も終わった。


「さて・・・私も帰ろうかな」

口でそういいながらもはなかなかその場を離れられないでいた。
1年生の後片付けも終わって誰もいなくなる。

はそっと立ち上がりコートに駆け寄った。

網に触れるとカシャンと音が鳴って揺れる。


ふと見るとコートへの入り口のドアが開いていた。
はこっそり入ってみる。

「わぁ・・・」

初めて入るテニスコート。
いつも上から見てるだけだったのに今日は自分が中にいることには感激した。







「おいっ!テニスコートは部外者は立入禁止だぞっ!」

後ろを振り向くと下校途中の荒井先輩がに怒鳴った。

「あっ・・・ご、ごめんなさいっ・・・」

急いで謝って外へ出る。

「何だか知らないがな、テニスコートに勝手に入ってんじゃねーよ。しかもローファーのままで・・・」

「あ、あのっ・・・ごめんなさい・・・」

怖い。
2年の部員でも怖いと有名な荒井。
は心底怯えた。




「何をしている」
後ろから低い声がかかった。

「あ、手塚先輩・・・」
「部長・・・」

手塚が無表情のまま荒井の方へどういうことか聞いた。

「コイツがローファーのまんまテニスコートに無断で入ってたんで注意しただけっスよ。じゃ、お疲れさまっス」

荒井はそのまま逃げるように言ってしまった。



「誰だか知らないが、テニスコートへは無断で入らないように」
「あ、ごめんなさい・・あの、失礼しま・・・」

「ちょっと手塚、そんなに怖い顔して言うからこの子怯えてるじゃない?」

後ろからそう声がかかる。
その声は・・・


「ふ、不二先輩っ!?」


は何ヶ月振りかに聞く想い人の声に失神しそうになるのを必至で耐えた。



部室から続々とレギュラー陣が出てくる。
その後ろに同じ学年で同じ図書委員をやっている越前リョーマがいた。

「越前くん・・・そうか。越前くんもレギュラーだもんね」

自分に言い聞かせるようには言った。

「誰だっけ・・・えっと・・・・・・あ、1組のだ」

「何だぁ?越前、オマエこんなかわいい子も捕まえてるなんて、いけねーな、いけねーよ」

桃城先輩が越前くんをからかうように突っついた。




「あ、あのっ・・・私。失礼しますっ・・・」
もうこれ以上ここにいたら耐えられないとばかりには踵を返してその場を去ろうとした。

が、それも腕を掴まれ遮られる。

「ちょっと待って」
がしっとしっかり掴まれて。
しかもその声は・・・・・

不二先輩!?



「な、なんですか・・・?」
「送ってく」

は、はいぃぃぃ!?

私が。

あの不二先輩に!?


「えええっ、ああ。いいい、いえっ。うち、近くですからっ・・・大丈夫ですからっ・・・」
こんなドラマや小説みたいな展開って・・・。
「近く?□×駅のどこが近くなの?ここから電車で1時間はかかるでしょ」
そう、なのですが・・・てゆうかなんで不二先輩が知ってるの!?
「というわけで、ボクはこの子を送って帰るから。またね」

そういって。私の手を強引に引っ張って。

大好きな不二先輩は。歩き出してしまったのだ!




帰り道。

「あああ、あの・・・」
「ん?何?」
「そのっ・・・手、離してもらってもいいでしょうか・・・」
「ダメ」
「えええええ、な、なんででしょう・・・」
「はぐれちゃったら大変でしょ」
笑顔でそう言われてしまったら。私は言い返せない。

「あの、」
「何?」
「な、なんで不二先輩は私が□×駅だって知っていたんでしょうか・・・」
「ああ。だってボクその隣の駅の○△駅だから。知らない?」
知ってる。知ってます。
毎朝不二先輩の乗る電車の車両、時刻に合わせて乗ってるくらいですから。
そんなこと言えないけど・・・。
「えっと、さん・・・だっけ。何回か一緒に乗ったこと会ったと思うケド」
何回、じゃなくて毎日です。


不二先輩は話を途切らすこともなくいろんなことを話してくれた。
それすらも感激で。
しかも家まで送ってくれたから。嬉し過ぎる・・・。



このまま時がとまっちゃえばいいのに・・・

ホントにそう思った。









でも現実は。
いまは私の家の前。
表札には「」の文字。


「あ、あの、ありがとうございました」
「イエイエ。どういたしまして」
「・・・不二先輩・・・っあたし、先輩とまたお話出来てよかったです・・・」
「・・・・・・」
「先輩は憶えてないかもしれないけど、入学式の日に私先輩にぶつかってしまって。それから私先輩がずっと好きだったんです。だから今日はすごく嬉しかったです」
自分でも何を言ってるかわからなかった。
けどさりげなく好きとか言ってしまった自分に気付き、恥かしさのあまりはそのまま家に入ろうとした。

「待ってっ」

今度は腕を掴まれるだけでなく、次の瞬間私は不二先輩の腕の中にいた。

「あああ、あのっ・・・不二先輩!?」
「そんなにあせんないでよ・・・ボク、入学式の日のこと覚えてるよ」
「えええっ」
は真っ赤になって両手で顔を覆った。

「それで、君が毎朝同じ電車に乗ってるのも知ってたし。4階の1組の窓から朝練見てるのも知ってたよ」

えええええ。
誰も知らないと思ってた朝の日課にも。
気付かれてた!??

「誰のこと見てるのか確信があったわけじゃないんだけどね・・・」
「不二先輩〜・・・」
「ボクもさん・・・のこと好きだよ」
「えええええっ」
はビックリし過ぎて体の力が抜けた。
不二はそれをしっかり支える。

「ボクものこと見てたんだけどなぁ・・・気付かなかった?」

まったく。というか全然。

てゆうか不二先輩があたしなんかを選んでくれてたことが嬉し過ぎる。



「ねえ、って呼んでもいい?」
「もう呼んでるじゃないですか・・・」
「気付いてた?じゃぁいいんだね」
「なんでそうなるんですかぁ・・・」
「ダメなの?」
「ダメじゃないですけど・・・」

呼ばれる度に倒れそう・・・

そう思ったらその心を読んだのか、
「大丈夫だよ、倒れたら毎回支えてあげるから」

そういう問題じゃないんですけど・・・

ともかく。
私は先輩と俗にいう恋人同士になってしまったのだ。




、大好きだよ」
「先輩、私も先輩が大好きです」






次の日前田さんに言ったらすごく驚いてました。




written by koo hiduki .....






不二さまが白い。白いよ。こういう出会いってありきたりだけど、
絶対ないですよねー。夢見てみました。ドリームだしね。



BACK