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予感 かたん 夕暮れ色が差し掛かる図書室で、不二は一人、本を探していた。 平均的下校時刻も既に一時間は軽く過ぎており、学校自体がとても静かに感じる。 本を探していた、と言っても何か目的のものがあったわけではなく、ただ興味の涌くようなタイトルを手にとってはまた戻す…という作業を繰り返していた。 今手にした本もまた、不二の興味をそそらなかったらしくあらすじだけ読んで元の位置へと戻す。 かたん 音がした方へと顔をあげると、そこには部活の後輩がいた。 ―――少々生意気と謂われていた… 「………ども」 無愛想とも言えるような挨拶をして、リョーマはそのままその本棚を通り過ぎて行く。 10冊くらいはあるだろう本を手にしていた。 そういえば越前は図書委員だったっけ…と頭の中で考える。 では、返却された本でも戻している最中なのだろう、と推測をつけた。 「これ、そこの一番上に戻してくれます?」 一度は去った筈の声が再び下の方からした。 一冊の本を差し出している。 不二はゆっくりとそれを受け取って言われた位置に戻した。 「どーもありがとございます」 本当に有り難く思ってるのか…なんだか棒読みで言われた気がする。 「何か探してるんスか?」 「いや、別に……何か読もうと思って手当たり次第見てるだけだよ」 「……あと10分で閉館だから」 一応、助けてくれようとしたのだろうか。 またそれだけ会話を済ますと二人には2,3の本棚分の距離が出来た。 閉館あと5分というところで、不二はようやく借りる本を決めた。 貸しだしカウンターには案の定越前が手持ちぶたさに本を眺めつつ時間をやり過ごしている。 「越前」 「あ、決まったんスか」 「うん、これ2冊お願い」 「学生証ありますか」 不二から学生証を受け取り、ピッと機械に読み込んでいく。 越前と本…なんて似合わないくみ合わせなのだろうか、と思いつつ、手馴れた手付きで作業をする。 「返却は2週間後です」 「ありがとう」 本を受け取って鞄に仕舞った。 「じゃあ、また…部活で」 そう言った越前に笑みを返す。 それからなんでか、どうしてか、よくわからないけれど、 不二は別れの言葉ではなく誘いの言葉をかけていた。 「……まだ何かあるの?」 「え?」 「委員。もう後は帰るだけ?」 「…あと日誌書いて出すだけっスけど」 「じゃあ、待ってても構わない?」 「なんで?」 「…なんでかな。一緒に帰らない?」 越前としては一応先輩の誘いであるし、断る理由もなかった。 だが、さして仲の良かったわけでもない先輩からの誘いは理解出来ないものがあった。 何故、というのは当然の疑問だったであろう。 快く…というわけではなかったが承諾し、越前が職員室に日誌を出しに行ってくる間、不二は一人夕暮れ色からさらに暗みがかった空を仰いだ。 パタパタパタパタパタ…… 廊下を急いで走ってくる音がした。 勢いよく閉じていた扉が開く。 「すんません」 「いいよ、別に好きで待ってたことだから」 「じゃあ、帰ります?」 「そうだね」 他愛もない会話に飲まれていく。 アメリカではどんな生活をしてたの、だとか。 どうして日本に来ることになったの、だとか。 リョーマにとってはもう何度尋ねられたか判らないであう会話をする。 そんなことでしかこの場を繋げることが出来なかった。 「うち」 「…え?」 「うち、そこなんで」 越前が指差した先には大きな家…というより寺の鐘の方が先に目に入った。 「お寺?」 「知り合いの坊さんのうちっスよ」 知り合い、というわりには表札に『越前』と書いてあるのを不二は確認した。 「スゴイ、広いね。…コートまであるし」 「…別に」 一般的に金持ちの部類に入るであろう不二にとっては普通のことだったのかもしれない。 しかし1コートまで持っているというのは余程の―――そう、プロ級の、家庭だということを暗示している。 「今度、打ちに来ます?」 「いいのかい?」 「…別に。先輩、いい練習台になるし」 あっさり先輩を“練習台”呼ばわりをし、リョーマは不敵に笑った。 「じゃあ、また明日」 「うん、また部活でね」 にっこり笑って不二はリョーマが家の中へ向かうのを見送った―――。 written by koo hiduki ..... キリリク書いてたつもりだったのに何がどうなって ただの先輩後輩な2人になっちゃったんでしょうねえ… これに、チョット色気を加えるラストを加えるとこんな感じ(笑) (↓したスクロールしてください) ドアの取っ手に手を掛けるのを見てから不二も自分の家の方へ足を進めた。 「―――不二先輩!」 再び自分を呼ぶ声がして振りかえる。 「また、誘ってください」 自分でもなんでそんなことを言ったのかよくわからなかったけれど、なんとなく、そう言いたくなった。 不二は微笑んでそれに答えた。 |