怖い、と感じた。

それは初めてかもしれない感情で、しかもまったく予想の出来ない事態であった。
まさか、自分が、怖いと思う対象がテニスではなく―――


勉強、だったなんて。





It's you about a charm ..... thanks diary 1900 HIT for 千鶴様



越前リョーマは思いきり悩んでいた。

あまり悩むことの少ないリョーマではあったが、本気で悩んだ悩みは自分ではなく他人に関することでだった。

理由は恋人である不二周助先輩の高校受験に関すること。

もともと付き合い始めたのが、夏ぐらいで、それからも先輩が三年生であることや部活が厳しかったこともあってあまり遊びに行ったり…ということも少なかった。電話越しで話す毎日でもそれは仕方のないことだったが、受験が近くなるにつれて会う回数も減ったし正直淋しい想いもした。


けれど、いつでも先輩は欲しい時に欲しい言葉をくれた。

会いたい、なんて言葉に出来ないのにそれを敏感に察知して時間がないのに自分のところへ来てくれる。


『僕が、君に会いたかったんだよ』


そう、言って綺麗に微笑むんだ。


自分は小さい、と思った。

たった一人の愛しいひとからも自分は守られてばかりいる。





明日は、受験本番。

先輩だって不安に思ってると、そう、思う。

何か。
何かしてあげたい。



電話?
―――いきなり電話したら迷惑かもしれない。

いっそ会いに行ってしまおうか?
―――それこそ勉強の邪魔だ。

メール、とか…?
―――味気ない、かな。


手紙、とかいろいろ考えて、考えて、リョーマは思い切ってコートを羽織り真っ暗となった外へと飛び出した。













リョーマの家から不二の家まで、電車で1駅はある。
中学生の頭には"電車に乗る"なんてすぐには浮かばなかった。

暗くなった道のりを自転車のライトだけが照らしていく。
30分もほど漕いでようやっと見た事のある町並みになってきた。


角の一番大きい家。


シャッターつきの車庫のある大きな家が見えた。

リョーマは2階の不二の部屋の電気が点いていることを確認してから携帯電話を取り出した。




トゥルルルルトゥルルル……

ツーコールで、電話のコールは切れた。
耳に心地よい恋人の声が聞こえる。


「……もしもし?」
『リョーマくん?』
「うん」
『どうしたの』
「ちょっと………今、大丈夫っスか?」
『うん、一息いれようかなって思ってたとこ』
「そ…よかった」

どう、"励ます"ための話題に繋げていいのか判らず、自然歯切れが悪くなる。
戸惑って会話に詰まると不二が先に切り出した。

『嬉しいな…リョーマくんから電話くれて』
「べつに…」
『明日、本番だから。リョーマくんの声聞いてると安心するよ』
「……」
『もしもし?』

返事のないリョーマを不審に思ったのか不二が問い掛けてくる。

「周助、明日」
『ん?』
「受験終わったら、遊びに行こう。二人、だけで…」
『……うん…』
「だから、…だから、明日、頑張って」
『うん、有り難う』
「じゃぁ、帰らないといけないから。…………してる」


リョーマは不二の返事を待たずに急いで切った。
玄関の横に握り締めていた御守を置いて自転車に跨った。














不二は、切れた電話をそのままに握り締めていた。

大好きな愛しい恋人からの数少ない電話の余韻に浸り、不二は自然顔を綻ばせた。
今の会話をもう一度頭の中でリフレインさせる。
しかも向こうからデートでお誘いがあったのだ。
不二は先ほどまで感じていた不安などなくなっていくのを感じた。


(最後に一番嬉しい言葉を聞いた気がする)

自分の聞き間違いでなければ、最後リョーマが切る寸前に言ったのは想いを伝えるための言葉であった。
本当に、そのテの言葉は数える程度しか言わない恋人だ。
急いで切るところを見るに余程恥かしかったのであろうか。

そんな彼をまた微笑ましく思う。

不二はもう少し頑張ろう、と再び机に向かった。











翌日―――

それはとてもよく晴れた日であった。

同じ高校を受験することになっている手塚と7:30に駅で待ち合わせをしているため、家を7:15に出る予定で目を覚ます。
由美子姉さんや母さんに忘れものはないか、と何度も聞かれ大丈夫だよ、と笑顔で応えた。

「じゃ、いってくるから」

姉さんに見送られ、不二は玄関を出る。



ふと、気付いた。


「?」


紫色のそれを広いよく見る。

昨日、リョーマは確か「もう帰らねばならない」と言った。
それはあの時自分の家ではなくどこかに出掛けているということ。

そしてそれはおそらくきっと―――




「リョーマくん……」

御守をもう一度見て、確かにリョーマはここにいたのだと悟る。

不二はそれを握り締めて制服のポケットにいれた。
"合格祈願"と書かれたその御守を。







春になったらきっと二人で出掛けよう。




written by koo hiduki .....






えっとーこれはーダイアリーで気紛れに指定したあの1900番を取ってくださった
千鶴様へ。甘い…ですか?甘くなってます?むしろ普通?(痛)
甘いつもりなんですけど……。もし、もし、もし。書ければ続編あまあま旅行も書こうかね。



BACK