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初めてだった。 2人で迎える初めての日だった。 恋人同士なら本当に大切にしたい一日だ。 自分にとっても、相手にとってもそれは特別な日なのだ。 別に神様とか信じてないけど、この日ばかりには「生まれてくれて有難う」とか「出会わせてくれて感謝します」だとかを思う。 ―――そんな、特別な日。 a blessing to a selfish sweetheart ..... HAPPY BIRTHDAY for 不二先輩 「あ」 年が明けてから1ヶ月が経っていた。 家中の真新しいカレンダーを一枚捲っていた。 1月から2月へ。 31日まである1月に比べ、2月はなんだか日数が足りないように見えた。 「うるう年、なんだ…」 4年間のうち3年は28日にしかない2月は、今年は29日まで書かれていた。 4年に一度の―――うるう年。 そしてその稀有ともいえる年に生まれた人たちには、4年に一度の本当の誕生日を迎える年だった。 知らずリョーマは笑みを浮かべる。 自分の最も身近に居る一人を思い出す。 その一人もまた天才と言われるに相応しく、2月29日という貴重な一日に生まれた一人であった。 「おっチービちゃーん♪」 「うっさいっすよ、猫丸先輩」 「……うわ、可愛くない」 「別に可愛いとか思って貰いたくないっすから」 売り言葉買い言葉。 人よりもちょっと―――本当にちょっとかどうかはさておき―――生意気に育ってしまったリョーマは自分に振られた売り言葉に即座な反応を返した。 「何すか」 溜息を吐きながら、リョーマは髪がぴょこぴょこと跳ねている先輩を見上げるようにして視界に入れた。 「そーんな可愛くないことばっかり言うお口はこうしちゃうぞ〜〜」 ぎゅむ、と頬を引っ張られる。 少し顔を顰めて、手を払いのけるようなしぐさをした。 すると相手はあっさりとその腕を下ろす。 不信に思い見上げるようにして、最近は自分を構うのが趣味になってきている先輩を見遣った。 恋人、不二周助のクラスメートであり、大親友でもあるそのひと。菊丸英二はニヤニヤ笑っていた。 「わかってるんだぞ」といったような判りやすい表情をしている。ふうん。 そしてリョーマの背中を強く叩いた。 それからリョーマの耳に唇が触れるほど近づけた。 「次は4年後だからな。うまくやるんだぞ!」 大石副部長と菊丸先輩の方が付き合っている年数が長い。 どうも英二先輩は自分を名実ともに先輩だと思っていろいろ世話を焼きたがる。学業も、テニスも、―――恋も。 実際その日の展開を考えると―――うまくやらないと、かも…とか考えてリョーマの頬が少し赤くなる。 「余計な世話っすよ」 ぶっきらぼうにそう言った後、それでも笑ってる菊丸の目線の先を追うと、そこには不二の姿があった。 不二は結構心が狭かった。 いや、もう少し言い換えると、その人物に関することだけに心が狭かった。 一挙一動を見逃さないように。 あるいは、彼の視線が他へ向かないように。 彼の全てを独占したいと思っていた。 彼―――越前リョーマはそんな不二の危険な感情にも気付いているようだった。 面と向かっては言わない。けれど、時たま見せる表情…自分が菊丸と話しているところを見られた時のバツの悪いといったような表情が、それを匂わせている。 今回もまた、必要以上に近づいて話していた菊丸を押しやるようにして不二の方へと寄ってきた。 全身からは不二への想いで溢れているようだった。 愛しい。 ああ、こういったような感情をそう呼ぶのだろう。 不二は穏やかに微笑んで全身で示してくるその想いを受け止めた。 「周助!」 リョーマは恋人の名前を叫びながら駆け寄った。 先程の菊丸とのじゃれあいは見られていた筈だ。 心の狭い恋人のこと、そんな情景に少なからず嫉妬を覚えただろう。 ―――そんな檻の居心地もリョーマは好きだった。 不二も判っているのか必要以上な束縛を実行しない。 ただほんのりとそれを雰囲気で漂わせるだけだった。 別に実行してくれたっていいのに、とリョーマは少し思う。 それは何より、好いてくれているという証拠であったから…。 「そんなに急がなくても僕は逃げないよ」 「別に、そんなこと思ってないけど…」 リョーマの顔が下へと向き、最後には有らぬ方を向いた。 会話を縫うように、ラケットでボールを弾ませる。 「ねえ、…月末、空いてる?」 「月末って?」 「…日曜日。29日」 「…どうして?」 何故かなんて判りきっているのに、敢えて不二はその疑問を告げる。 恥らうように聞いてくるリョーマが可愛くて仕方がなかったからだ。 リョーマも不二がわざとそんなことを言っているのが判っているのに少し呆れたように…それからまっすぐ不二を見ながら続けた。 大きな瞳には不二だけが映っている。 「誕生日でしょ。周助の、本当の誕生日でしょ。だからお祝いしてあげる」 「あぁ…そうだったね……」 周助さえ、よかったらだけど……と小さくリョーマは言った。 不二の家はどちらかといえば裕福だった。中学から子供2人を私立に入れるくらいには。 だから派手好きの両親は自分を祝うためにパーティでも催そうかと言ってくれていた。 既にその申し出は申し訳なく思いながらも断ってある。 それはもちろんリョーマと過ごしたいと思っていたからだ。 「―――当日は、何でも言ってもいいかい?」 「え?」 「お祝いしてくれるなら。何を願ってもいいよね?」 不二は笑みを崩さずにそう言った。 リョーマはそれがどんなに危険なことかこれまでの経験上判っていた。 不二という男は迂闊な『約束』をしてしまえば、それを盾に何でもする男だったから。 「―――ダメなの?」 リョーマは迷った。何とも申し訳なさ程度の迷いではあったけれど。 「いいよ。何でもいうこと聞いてあげる」 ―――結局こういうしかなかったのである…。 ―――2月29日当日。 世間は日曜日であった。 朝の弱いリョーマは眠い目を引き摺ってなんとか早起きをし、不二の家へと向かっていた。 手には不二へのプレゼントを持っている。 電車を乗り継いで、降りてからはさくさくさくと早歩きをした。 もう何度となく歩いたことがあるから、道に迷うことはなかった。 駅から歩いて数分もしないうちに、やがて見えてくる一際大きい立派な家。それが不二先輩の家だった。 ピンポーン、と無機質な音を鳴らすインターホンを押した。 インターホンから家主が声を発すことはなく、押した直後に玄関の扉がガチャと開いた。 「やあ。いらっしゃい」 自分だと思ったのだろう―――その家主がラフな格好をしてリョーマを出迎えた。 「おはよ、ございます。お誕生日、おめでとうございます」 「うん、有り難う。どうぞ、上がって?」 「……お邪魔します…」 とりあえず第一目的である「おめでとう」を言うことを果たし、リョーマは不二に促されて玄関を潜った。 「お茶でも持って行くから。先、上がってて」 「ん」 部屋の位置は既に把握している。 迷わずリョーマは不二の部屋へと入り、適当なクッションを見つけて座った。 相変わらず綺麗に整った部屋だ。 「おまたせ」 不二が飲み物とお菓子―――それもちゃんとしたケーキを持って来てくれた。 悪いな…と思いつつしっかりそれを平らげる。 他愛もない話しをポツポツ、としてから、突然不二がリョーマの横へと座った。 「な、何…」 「色々考えたんだけどね」 「な、何を」 無意識に後ろに下がろうとしてしまうのは仕方なかった。 「ドコかに行くとか。でもやっぱり人ごみってそんなに好きじゃないし」 「…俺も嫌だけど」 「だから、自分の家っていう一番寛げる場所を選んだんだよ」 「ふうん」 笑顔だ。この笑顔はクセモノだ。 「気付いてた?―――今日、家に誰もいないんだよ」 「……っ!?」 「いなくていい、って追い出したからね。だから今リョーマ君と、二人っきり」 するりと腕が伸びて不二の手が頬を撫でる。 すくみあがっていると更に服の中へと腕が伸びてきた。 「…、周助ッ」 「嫌?」 嫌か、と聞かれればNOとしか言えない。 そんな聞き方はズルイ。 「嫌、だなんて言わせないけどね。だって君が言ったんじゃない?」 『何でもいうこと聞いてあげる』ってね。 「エージとか他の誰のことも考えられないように、僕のことだけ考えてよ」 ―――崩れていく意識の中で、やっぱり恋人は心が狭いと思った…。 written by koo hiduki ..... 04,02.29 不二先輩のつもりだけど、どうもキャラがごちゃごちゃに…。しかも裏に続きそう。 何はともあれ、先輩オメデトウ!ファイル、バイト先に忘れてゴメンナサイ…。 |