名前



「え?」
リョーマは思わず間の抜けた変な返答をしてしまった。
「や、別にイイケド」

ニコニコ。
返答の相手―――不二先輩は笑ってる。いや、あれはウラの方の笑いだ。


オレ、なんか、した?
でも不二先輩はなんか怒ってる。
「だからイイんだってば。別に。気にしてないけどネ」

してるじゃん。気にしまくりじゃん。


「さっきの―――・・・」
考えてみたら不二先輩はこれしかいってない。これだけじゃ全然ワカンナイよ。


練習終了後―――
1年のリョーマは片づけをしてから部室に向かった。
もう既に着替えて帰るところだった菊丸先輩と少し会話を交わした。
「あっおチビちゃん!片付けお疲れー。おさきー」
「お疲れさまっス」
「あ!おチビちゃん!コレ、あげる!」
ひゅっと宙に円を描くように飛んできた―――冷えた缶ジュースのファンタ。
あやうく落としそうになるのをうまくキャッチする。
「・・・ども」
「ん、またネー」
感謝の意も込めて笑顔を返す。
ぎゅ。
「にゃー。いまのカワイイ〜〜vv」
菊丸先輩がオレを抱きしめてた。
「ちょっ・・・」
抗議しようと口を開く前に頬に掠めるようなキスされて。
逃げられた。

あ。
思い返してみて気付く―――
あの菊丸先輩の行動に怒ってるのだろうか。

「ふ、じセンパイ・・・?」
「・・・なに?」
理由はなんとなくわかったものの、なんていったらいいんだ。
オレが望んだわけでもないし、事故みたいなもんだし。

オレが困っていると不二先輩の方が口を開いた。
「リョーマくんはさ、自分がカワイイとかわかってるの?」
「え?オレ、別にかわいくなんか・・・」
いいかけて、菊丸先輩がいったセリフを思い出す。
『いまのカワイイ』・・・そんなこといってたような。

「ちゃんと自覚した方がいいよ、キミを狙ってる人なんていっぱいいるんだから」
そんなこといわれたって。
だったら先輩が守ってくれたらいいんじゃない。
オレは先輩のモノだってみんなにわかるようにしてたらいいんじゃない。
なんだか涙ぐんでくる。


らしくないな、と思った。
偶然見てしまって。
ボクだってエージがリョーマくんのこと気に入ってるのは知ってた。
いや、エージだけじゃなくて―――

リョーマくんに捨てられたりしたりどうしよう?


いまは、いい。
けど、いつか―――

「せ、んぱい・・・?」
リョーマは今にも泣きそうな声だ。
ボクは少し乱暴に彼を引き寄せ、強引にキスをする。
「・・・んっ・・・・・・」
息をつく暇もないくらい、キスを繰り返す。
「ん・・・も・・・・・・センパ・・・」


「・・・じゃない・・・」
「え?」
「周助。いってみて?でないと許さないからっ」
そういってまた言葉をつむぐ暇がないほどに唇をふさぐ。

「なっ・・・・・・ん・・・ふっ・・・センパ・・・」
身じろぎするリョーマをしっかり捕まえる。
「センパイじゃないよ?」
「・・・ん・・・・・しゅ、すけ・・・・・・」
息切れしながら一生懸命ボクのナマエを呼んでくれる。
「しゅーすけ・・・しゅ・・・すけ・・・・・・」

はぁっ・・・


一息ついてからリョーマが口を開く。
「も、なに・・・どうし・・・」
「ボクは、リョーマくんの何?」
「?」
「ボクにとってリョーマくんは特別なんだけど、リョーマくんにとってはどうなの?ボクにはキスだって特別なモノになったのに」

しばらく不二先輩がそんなことゆうなんて―――と思考が止まってしまった。
「何いってんの?オレが自分からキスするのは先輩だけじゃん?それじゃダメなの?」

まっすぐ、そう聞いてくる。
まっすぐで正直で綺麗な目。
「でも―――ナマエで呼んでくれないし」
「しゅーすけ。しゅうすけ。周助!」

ムキになって不二のナマエを連呼するリョーマ。
そのカオは少し悲しそうで。

「まだ足りない?呼び足りない?一晩中だっていってあげるよ、周助」
キモチを疑われた悲しさと、淋しさ。
小さなリョーマの身体から感情があふれてる。
そんな風にさせたのは自分。

「ごめんね・・・」
ボクがそうゆうと安心したのかついにリョーマの目から涙がこぼれた。
「ふえ・・・っん。しゅうすけ、なんで信じてくれないの?しゅうすけだってよくわかんないのに・・・」
ボクは一生懸命彼の身体を抱きしめて涙をすする。
そして―――
「好き。好きだよ。大好き」
「・・・ナマエいってよ」
今度はリョーマからの小さな要求。
「リョーマ」
「もっと、もっとだよ」


「好きだよ、リョーマ」




後日。
「エージ?ボクのリョーマくんに手を出したんだから。覚悟できてるよね―――?」
ニコニコニコ。

「・・・うにゃ〜〜〜」
菊丸の叫び声が部室に響き渡った。



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