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写真の中の本物 「この公式を使いこの式がこうであるというのが証明され・・・」 3−6は今4時間目。数学の真っ最中であった。 先生はだいぶ年を取ったおじいさんなので、声もなんだか心地よくて眠れ〜と言ってるように聞こえる。この先生は自分で問題を解くのが好きなので生徒を絶対に指す事はない。 案の定、同じクラスで同じ部活のレギュラーをやっている菊丸は既に夢の中。他にもクラスの数人が机に突っ伏しているのが見える。 不二は息を付き、机の中から眠気覚ましなるものを出した。 昨日現像したばかりの写真である。 写真屋で貰った紙で出来ているアルバムを開く。 そこには不二が自分で撮った写真が保存されていた。 一枚一枚丁寧にそれを見ていく。 夕焼けや、川辺等普通の景色が続く中最後の方になると不二の手の動きはますます遅くなる。 そこに映っていたのは。 不二の部屋のベットで眠る1年の越前リョーマだった。 顔を半分枕に埋めて、リョーマはすごく気持ち良さそうに眠っている。 次の写真では少し目を開けて、眠そうにカメラを自分からズラそうといやいやと顔を顰めながら腕を伸ばそうとしている。 数枚余っていたから撮った。 でも撮って良かったと思う。 不二は愛しいような目線で見て満足した。 不二はアルバムを閉じて机の中に仕舞うと再び黒板に向かいノートを書き始めた―――。 「不二〜。お昼食べよー」 そう言ってさっきまで眠っていた菊丸は元気よく不二の机に自分のお弁当を置き、いつも通り前の席のクラスメートの椅子を拝借した。代わりに自分の椅子を提供している。 「不二、さっきの時間写真見てなかった?」 「うん?ああ、この前現像したやつをね」 「見せて、見せて。俺ホント不二の写真好きなんだよね」 初めて不二の写真を見せた時から菊丸は不二の撮る写真を気に入っていた。 不二は結構独特な感性を持っていた。不二は自分の感情をコントロールするのが上手かったから、写真にはいろいろな感情が出ていた。なんとなくにじみ出るその感情に菊丸は惹かれるものを感じた。 「いいよ、はい」 そう言って机の中からアルバムを取り出す。 不二は自然をそのままに写すのが好きだったから、そんな光景が多かった。 菊丸は無言で夢中になってじっと見始めたので、不二も少し恥かしかったがお弁当に集中した。 「にゃ?これ、おチビ?」 菊丸がラスト二枚のところで動きが止まる。 そう、先程不二が優しい目で満足そうに見ていたリョーマの写真である。 「あ、見られちゃった。抜くの忘れてたよ。・・・フィルムが余ったから撮ったんだ」 別段表情に変化は見られないが明らかに幸せ感がにじみ出ている不二の顔を見て、菊丸は「忘れてた」のではなくただ単にノロケたいだけなのを悟った。 不二程のヤツが忘れるなんてそんなことがあるわけがないのである。 ノロケか、それとも―――。 「何やってんスか」 どこかで聞いた生意気な声が不二と菊丸にかかる。 「・・・あ、おチビ」 「リョーマ君」 なんてタイミングのいい登場なのだろう。 「ちっス。あの、辞書貸して貰えません?国語」 「ああ、うん。いいよ。ちょっと待っててね」 不二は即座に立ちあがりロッカーに辞書を取りに行った。 「エージ先輩?何見てるんスか?」 「こ・れ・にゃvおチビちゃん、可愛い〜v」 菊丸は少し楽しそうにアルバムのリョーマの写真を目の前で広げた。 「これ・・・っ」 「不二が撮った写真だよーんv」 「上手く撮れてるでしょう?」 不二ははい、と辞書を渡しながらリョーマに微笑んだ。 「こんなん持って来ないでくださいよ」 「たまたま入ってたんだよ」(微笑) 絶対確信犯だ・・・!リョーマも菊丸もそう思ったが敢えて突っ込ま(め)なかった。 「可愛く撮れてるよねえv」 不二はニコっと微笑みながら写真を見る。 ―――あの朝――― リョーマは不二家に泊まっていた。 不二は先に目を覚まし、腕の中で今だ眠り続けるリョーマを起こさないように優しく撫でた。 そしてふと、もうすぐフィルムが終わる事を思い出し、この瞬間を写真に収めて置こうと思いついた。 一枚シャッターを切るとリョーマが少し目を覚ます。 「ん・・・しゅ、すけ?」 「んー・・・?」 「何、してるの・・・?」 「んー・・・写真をねー・・・」 リョーマは少し顔を埋めながら手を伸ばし阻止しようとするがまだ目がきちんと開かないため方向が掴めない。 不二は曖昧な返事を返しながら構図を撮りシャッターを再び切った。 するとフィルムが終わって自動的に巻き帰し出す。 「・・・まだ寝てても大丈夫だよ、リョーマ君」 そう言って額にキスを落とすとリョーマはまた目を閉じた―――・・・ から、記憶が曖昧過ぎて全然覚えてなかったが、少し考えてリョーマは断片的に思い出した。 瞬時に一夜に起きた事など全て思い出し顔が赤くなる。 菊丸の手からアルバムを奪うと「また部活で」と言って早々に立ち去った。 「ゴメン、エージ。次の時間サボる」 手短にそう言って後を追う不二に、菊丸は反応がついて行かず、既に誰もいなくなってから「にゃんでっ?」と呟いた・・・。 「リョーマ君!」 「げ・・・不二先輩?」 おいで、おいで、と教室に帰る途中だったリョーマを掴まえた。 「次、サボろ」 それだけ言うとリョーマの手を引いて歩き出す。 拒否権はないらしい。 リョーマはお弁当机に置きっぱなしだったかな、と思いながらも不二に付き合ってやることにした・・・。 屋上に着くと同時にチャイムが鳴った。 二人はテニスコートの見える一角で座る。 「何でサボろうとか言い出したんスか?」 「リョーマ君が愛しくなっちゃったから」 「・・・何スか、それ。別にいっすけどね」 リョーマは身を乗り出して不二に抱き着いた。 不二の目に自分の写真のアルバムが目に入った。 リョーマが持ったままだったのだろう。 「写真・・・よく撮れてたでしょ」 そう言って不二はリョーマを抱き締め返した。 「うん。周助が撮ったんだから当たり前」 そう言葉は満足しているように聞こえるのだが、そう言ったリョーマの表情がどことなく不満そうだった。 不二は尋ねるような仕草をしてリョーマに先を促した。 「でも、あんなの偽物じゃん。ホンモノには勝てないよ」 「だから、周助はあんな俺を可愛いとか言っちゃダメ」 と顔を微笑ませて不二の胸に身体を預けた。 「はいはい、わかりました。じゃぁ、代わりに―――」 ホンモノをたくさん頂戴ね? |