The side of telephone



『バカか、お前は。』

電話ごしに相手に怒鳴り声が響いた。
たった一言だけで、相手が大層ご立腹であることが伝わる。

「そう怒らないでくださいよ、真田副部長」

この場合謝っている方はそんな言葉にもわざわざ"副"にアクセントを置き、悪びれもしない口調で応えた。

「先輩たちなら楽勝―――っスよね、あの程度の学校なら」
『…』

軽ーく言った言葉に返事はない。
軽く言っただけの言葉が、その沈黙によって重いものに変わった気がする。
事実、その言葉を発した少年―――切原は少し次の言葉に詰まった。

少ししてようやっとつなぎの言葉が返って来る。

『で、今どこにいるんだ』
「えーっと…ああ、ここはこの前の…"せいがく"だったかな」
『青学?今日の対戦中のK中とは逆方向だぞ』
「んー…乗るバス間違えたみたいっス」

ちーん。
まさに終了と言った感じである。

『……もう帰っていいぞ』
「…え」


プープープー……

電話は一方に寄って強制的に終わりを告げ、もう一方は答えるものもなく、空しく電話の音だけが聞いた。




ともあれ、副部長殿に見捨てられた少年(?)は暇を持て余していた。


「偵察に行くのもなんだしなー…」

顔割れてるし。
っていうか今日は日曜だから練習やってない筈だし。
日曜だからなのかバスの本数も少ないらしく、後30分は待たねば来ない。

「どーっすかな…」


手持ちぶたさに鞄からゲームボーイアドバンスを取りだし、バス停のベンチに座りバスを待つことにした…。









1面のボスを倒したところで、後7分くらいになり、切原はセーブしてゲーム機をバックに仕舞った。
ふと、人の気配を感じて校門の方へ振り向いた。


「…」
「…」


たっぷり5秒は見詰め合って、2人は全く違う考えた。


(手塚さんじゃん)

一目置いているだけあってすぐに存在に気付く切原―――に対して一方、


(……誰だったか…)

じーっとどこかで見たことのある顔を見つめる。



「…どもっス」
「切原…だったか」

なんとか相手が話し掛けるまでには記憶をフル回転させ思い出した。
同時に言葉を紡ぎ、お互いなんでここにいるんだ、といったような疑問の表情をする。


先に言葉を続けたのはやはり切原だった。



「なんで手塚さんがここに?」
「…ここは青学の前だぞ。それはこちらの台詞ではないのか?」
「あ、そっスね。俺はまた乗り過ごしたんスよ。今日日曜じゃないっスか?自主練っスか?」
「いや。部室に用があってな」
「"部長"の仕事で?」
「まあな」
「大変なんスねー」


そこでバスが来て、2人は同じバスに乗り込んだ。
なんとなく気が引けて、切原は一つ後ろの席に座った。


「あ、都大会出場おめでとうございます」
「…お前に言われてもな」
「そりゃそっすねー。うちと当たるとしたら決勝らしいですね?楽しみにしてますよ。…手塚さんと試合するの」
「当たればな」
「そーっすね」



他愛もない話しをしてそのまま過ぎていく。
切原は、立海大附属の自分に興味があるのか、それともそのエースである自分に興味があるのか、どちらとも言わなかったけれど、手塚が自分に対して興味を少しは持っているだろうことを感じた。

15分くらいバスに揺られたところで手塚はバスの停留ボタンを押した。


後少しで…、この距離もなくなる。



手塚が降りるのであろうバス停が見え始めた。バスはゆっくりと動き続けている。









『ご乗車有り難う御座います、P停留所です』


バスの運転手が案内をし、前の方に座っていたおばあちゃんが立ちあがりよろよろと降車口に向かう。


『お客さーん、降りないのー?』

お決まりのドラマのような台詞で運転手は後ろを振り返った。


「降りないと。―――また、都大会で」





切原の一言で手塚は慌てて荷物を持ちバスを降りた。

切原は急いでバスの一番後ろの窓を開けて、顔を出した。





夕陽でよく判らなかったけれど、心なしか手塚の顔が赤かったような気がした。



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