「…好きなんです…」

「……サンキュ」


先輩は、俺の気持ちを否定しなかったから―――





存在 ..... for hyotei festa in 2002



人を裏切るだとか、そういう俗にいうところの非道な行為を、自分が出来るとは思わなかった。
やってしまえば簡単で、信頼というものは得るのは大変でも砕くのはあっさりとしたものだと、そう、思った。

敗者は切り捨てる、という氷帝学園テニス部の監督を務める榊の方針で、レギュラー陣の入れ替わりは何度となく行われて来たけれど、まさか自分にまでそれが及ぶとは思いもしなかった。
自分が、レギュラーになった時点で考えられうることだったのに。
そして、自分もまたそうやってレギュラーになったというのに。

「いいよ、それが長太郎の答えなら」

その時の自分を一番理解しているだろう、滝が穏やかに言ったのはその言葉だった。
自分はそうやって失うものも何もない状態でひとを蹴落としていくのだ。


鳳はそう、自分を毒づいた。

たとえ、他人が何かを失っても、


“それ”を願ってしまったから。


そのために自分はどこまでも酷くなれると、そう思い嘆いた。






「長太郎?」


着替えの終わった宍戸が部室から出てぼんやりと空を眺める鳳に声をかけた。
その声に、酷く安心したような笑顔を長太郎は浮かべる。


実際に安心するのだ。
宍戸をこの瞳の視界に入れていることで、宍戸が生きていることを実感し、そしてまた自分にとってどうしようもなくかけがえのない存在であることを確認する。

だから、そのために、自分は。




「長太郎、行くぞ」
「あ、はい」

わずか1mくらいの間隔で、何故か鳳は宍戸の後ろについて行った。
なんとなく、今は隣に並ぶ気がしなかったから。





「おい」


正門あたりまで来て宍戸が振りかえってなんで隣に来ないんだよ、と文句を投げた。








『いいよ。だって長太郎にとって、宍戸も居場所なんだろ』

滝先輩がそうやって、すごく優しい声で言ったけれど、反面表情はすごく真剣だった。





『俺は人以上に反射神経をつけたい。―――だから、鳳、協力してくれないか』

挫折の面を味わった人が選んだのはこんなにも、こんなにも安楽な人間だったのだ。だから、少しでもその真剣さに報いたくて手加減もなしで協力を承諾した。
滝も、宍戸も、どちらも真剣だった。


『だから―――俺も真剣だから』


宍戸も、と滝は言った。

それは鳳にとって居場所が2つあったから。
滝の隣と、宍戸の隣。
暗に、滝はたとえ結果が宍戸に悪く転んだとしても自分の居場所は保障してくれていた。


いつだって自分は他人に甘えている。

どうしたら。


どうしたら強くなれるのですか。







「好き、なんです―――」

散々色々考えた挙句、出た台詞はそれだった。
一球入魂、いや一言入魂。

は?と一瞬呆けた顔をして、宍戸はじーっと見つめ鳳を促した。


「は、あ、いや、スイマセン…迷惑ですよね、でも弟だとかそういうのは嫌なんです―――対等に、俺はやっぱり先輩の隣にいたいです」



自分で否定しておきながら、また願いを言うというまさに支離滅裂なことを言ってけれど普段なら気付くだろうことも、もう今の鳳は何も考えられなかった。


「あー―――サンキュ」


宍戸は少し赤くなりながら、そう、すごく小さく言った。



「先輩、それは」



肯定と受けとってもいいなら、自分は自分の道を信じようと、


そう、思えた。



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